梅ノ木のアパート Umenoki Apartment

Umenoki Apartment 2021 Apartment

梅ノ木のアパート 京都府向日市 2021年 新築

 

 街を映し出す建築

 

 広島県まで続く街道である旧西国街道と並行するバス通り沿いに面して建つアパートの計画。敷地はベッドタウンの駅前という好立地であるが、旧西国街道とバス通りに挟まれており、決して広くないどちらかというと法的にも非常に厳しい場所での計画となった。敷地前のバス通りであるが、歩道が75cmと狭く、通行人は行き交う車を気にしながら歩かなければならなかった。街の玄関口でもあり、旧西国街道にも沿った敷地であるため、人々が安心して通行できて、その安心が建物の印象に繋がることが重要だと考えた。周囲に高い建物がないエリアなので、東に面した部屋からは、京都の伏見桃山城をはじめ東山の稜線が見え、日が昇り、月が出る様子を見ることができる。そこからアパートのコンセプトを『向月栖』とした。東に見える広い空から月が出る様子がとても美しいことから、是非その月が見える住処にしたいと考えた。このエリアでは綺麗な竹林があり、竹工芸や筍の加工品を販売している企業も多く、竹と月という日本人に馴染みのある風景を映し出すことがこの建築が街のランドマークになり、アイコンとなると考えた。

 

アパート建築の全てに関わる。

 どのような建物を計画するのかということと同時に、今回は建物の賃料を想定し利回り計算をして、維持費や管理費を含めた試算から行い、そこから予算や構造などを導き出した。これらを考えると、とても木造以外の構造は難しく、また変形な敷地(三角形に近い五角形)で木造で建築することが可能なのかと躊躇したが、模型を造り、模型から建物の安定性を検証し、構造家のアドバイスを頂きながら時間をかけて計画を進めた。また住戸だけのアパートだと収益が取りにくことから、1階を店舗とすることで、より安定的な収益を得ると共に、駅前であっても比較的店舗の少ないエリアなので、街の賑わいを創出するためにも1階店舗の存在は不可欠であった。予算は元々余裕があった訳ではなかったが、ウッドショックに入る直前の高騰始めたところだったため、更に厳しい現実を突きつけられることになったが、何とかカタチにすることが出来た。そして、アパートを建てる際には『開発申請』が必要なのだが、今回は一部他社の協力を得ながら、『開発申請』にも取組むことで、施主により近い立場でデザインすることが今更ながら重要なことだと気づいた。

 

 建物としてはまず通行人の安全を確保するため、道路境界線から1階を1700mmセットバックさせて通行しやすくし、しかし通行人の安全を考えれば考えるほど建物は小さくなってしまうため、2階は1階より1400mmオーバーハングさせ、1階の軒の役割を果たしつつ、2階以上の面積を確保した。また木造3階アパートは通常『木三共』と言われ、まだあまり普及していないため、原則的なルールがあるのだが、その内の一つに『階段の解放性』がある。これは『廊下・階段が直接外気に開放されている』というものであり、階段の2面以上が開放されているというものだが、その階段はどこのマンションにでもある、『折り返し階段』のことだが、今回の計画でその階段をつけるだけの面積に余裕がなく、普通の住宅にある『直階段』を採用せざるを得なかったが、これが前例がないとのことで、京都府との協議に時間がかかってしまい、階段部分だけで3ヶ月以上時間を要した。しかしこちらが粘り強く府に対して求めたことで、京都府下で初めての『直階段』での木造アパートと承認された。その決め手となったのが、『緑のXX』の筋違(すじかい)のデザイン。元々面材での耐力壁で申請したが、解放性がないとのことで、全面開放を条件とされたが、木造として成り立たなくなるため、耐力壁を筋違に変更して耐力を確保し、同時にその筋違を竹に見立てることで建物のデザインを印象付けるものとなった。

 

 住戸は合計で4戸。各階に単身者用と二人住まい以上の『1K』と『2(1S)LDK』を各1戸ずつ。バス通りに面していることもあり、2階は特に道路と近い位置にあるため、敷地は狭いが廊下を広くとることで、住人の気持ちのゆとりを持たせることを優先することとした。全ての住戸の水回りはトイレ・洗面・浴室を1室にして、狭さを感じさせず広がりを持たせ、居室を出来るだけ広く取れるよう計画した。また『2(1S)LDK』のタイプは、リビングを直接外部に面する部分を小さくすることで、逆に広さを確保し、寝室との間には建具を設けずに、一室扱いとなるような繋がりを持たせることで、空間全体の明るさと広がりを確保する計画となった。変形な敷地なので、どうしても居室自体も変形となり家具のレイアウト等が困難になると予想出来たので、窓の位置を高くして壁の量を増やし、家具などが配置しやすい構成とした。

 

 このエリアはこれまで大手ハウスメーカーの規格アパートが多かったのだが、昨今大手メーカーのアパートの収益トラブルや基準法違反などの問題もあり、また投資物件と考えた時に大手メーカーの看板は未だに印籠のようであり免罪符のような存在でもあるが、同エリアで同じメーカーの同じシリーズの建物が乱立したことにより、将来的な需要を考えると、この街の特徴となり、街を映し出すような建築が今後支持され、大手ハウスメーカーの規格アパートにはない個性と、住みやすさや快適さを追求する人たちが増え、街の個性となり広がっていくことを願い計画した。

 

 

 

計画種別:建築設計

用途:共同住宅

構造:木造軸組構法

面積:1階床面積:  77.92㎡

   2階床面積:  91.42㎡

         3階床面積:  91.42㎡

         延床面積  :216.23㎡

 

設計監理:設計事務所アトリエボンド

施工:株式会社紬